一発特許査定は幸運なことなのか、それとも不幸なことなのか

一発特許査定とは、特許出願後、審査請求を行い、審査官による審査が行われ、拒絶の理由が一度も通知されることなく、特許査定がなされることです。

特許出願のほとんどは何かしらの理由を持って拒絶すべきものと判断されますが、特許出願の中には、拒絶の理由が無く、一発特許査定になるものもあります。

一発特許査定になるのは拒絶の理由が存在しないからですが、一度も拒絶理由が通知されないことは幸運なことなのでしょうか。

一度も拒絶の理由が通知されないことに対しては、
「権利範囲を狭く書きすぎた」
「もっと権利範囲を広くできたはず」
「分割出願の機会が失われた」
などの意見があります。

なお、現在では、特許をすべき旨の査定(拒絶査定不服審判におけるものを除く)の謄本の送達があつた日から30日以内に分割出願が可能となり、一発特許査定になった場合でも分割出願を行う機会は確保されています。

つまりは、権利範囲が狭いということが懸念されるわけですが、一度も拒絶理由が通知されないことは果たして不幸なことなのでしょうか。

特許査定については、以下のような統計があります。
20170914
(出典:特許行政年次報告書2017年版〈統計・資料編〉)

2007年ではファーストアクション件数が30万件程度であるのに対し、特許査定件数は14万件程度でした。

2016年ではファーストアクション件数が24万件程度であるのに対し、特許査定件数は19万件程度でした。

年度を挟んだ案件を考慮していませんので、大ざっぱな数字ですが、特許査定の割合は2007年頃よりも2016年は明らかに増加しています。

この統計から、出願人は、特許出願前に関連する技術分野の特許調査を十分に行い、拒絶されにくく妥協はしたくないギリギリの権利範囲を設定して出願している傾向があると推測できます。

出願の権利範囲は事業戦略に合うように、すなわち特許権が取得できなかったら事業が成り立たないということが起こらないように、知財戦略として権利範囲の落とし所も考えて出願していると推測できます。

この傾向は、年々高まってきたのだと考えられます。つまり、事業戦略と知財戦略が合致するように、特許出願がされてきて現在に至るということです。

ファーストアクション件数には拒絶理由通知書(これがほとんどだと思いますが)が含まれていますので、一発特許査定の割合は不明ですが、出願人は拒絶の対応をしたとしても取りたい特許を取りにいっていると言えます。

一発特許査定の場合は権利範囲を減縮補正しなくて済むため、出願時に狙った権利範囲を確保できます。

他方、拒絶理由の通知に対応するということは、補正によって権利範囲を狭くするか、意見書で拒絶の理由を有しない旨の反論をするか、いずれにしても出願人は応答期限までに対応を迫られます。

補正せざるを得ない場合、代理人費用を掛けて、権利範囲を狭くするわけです。意見書で反論する場合も代理人費用が掛かります。(特許庁への支払いは不要です。)

ということで、個人的には、一発特許査定は、事業戦略と知財戦略が合致している場合、出願時に狙った権利範囲をいじることなく、費用も時間も掛けることなく、早期に権利化できるということで、幸運なことだと考えます。

「一発特許査定になったから権利範囲が狭かった」と考えるよりも、「一発特許査定になって狙った権利範囲の特許権を取得できた」と考えるほうが、心のストレスは小さく済むのではと思います。

自分としては、一発特許査定は拒絶理由に対する反論機会がないので弁理士の仕事としては物足りないですが、狙った権利範囲の特許権を一発で取得できたことは良かったことだと思うようにしています。

その一方で、審査請求をした場合に一発拒絶査定というものは無いわけで、拒絶理由の通知があった場合でも、事業戦略と知財戦略に合致した権利範囲の特許を取得できるように対応する機会は必ずあります。

但し、拒絶査定が通知される前に最後の拒絶理由が通知されるか否かは審査官の判断に委ねられており、法律上も運用上も必ず「最後の拒絶理由通知」が通知されると決まっているわけではありません。

結局のところ、事業戦略と知財戦略が合致している場合、一発特許査定は追加の費用も時間も掛からずに狙った権利範囲の特許権を取得できるということで幸運なことだと思います。拒絶理由通知書を受け取ったとしても、落とし所の権利範囲を取得できる機会があるわけですから、不幸なことではないと考えます。