「平成」を含んだ商標はいつから取得可能になるか

現在、商標が現元号として認識される場合、商標を登録することはできません。これは、商標審査基準に明記されています。

(参考)特許庁ウェブサイト 商標審査基準 第1 第3条第1項(商標登録の要件)
八 第3条第1項第6号(前号までのほか、識別力のないもの)
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/10_3-1-6.pdf

以下の商標は現元号の「平成」を含んでいますが、その他の文字や図形が商標の要部になっており、商標が現元号として認識されないので、登録されています。

(登録第2687542号)

(登録第4278032号)

(登録第5416152号)

(商標の画像は特許情報プラットフォームより引用)

Google検索で「平成 会社」と検索しますと、「平成」そのもの、あるいは「平成」を含んだ会社名が多数ヒットします。「平成」を含んだ会社名や商品名は既に世の中に数多くあるものの、それは誰もが登録できなかったからでもあります。

しかし、天皇陛下の退位が2019年4月30日に決定し、この日をもって平成の世は終了します。2019年5月1日から新元号がスタートしますと、「平成」は旧元号になります。

また、商標審査基準では、「本項に該当するか否かの判断時期は、査定時とする。」と規定されています。つまり、査定時の2019年5月1日に「平成」が旧元号になっていれば良いことになります。

従いまして、2019年5月1日から「平成」のみならず、「平成」を含む商標の登録が可能になります。およそ、1年後です。

特許行政年次報告書2017年版〈統計・資料編〉によりますと、最初の通知が登録査定の通知の場合、出願から4~5ヶ月で登録可能となっています。

最先の登録可能日である2019年5月1日以降の登録査定を目指して、「平成」を含んだ商標を商標登録出願することを考えている企業もあると思われます。

逆に考えますと、譲渡目的で先取り的に商標権を取得することを目論んでいる者もいると思われます。

今まで「平成」を含んだ商標を使用できていたのに、他人に「平成」を含んだ商標の権利を取得されることで、使用ができなくなる、という事態も起こり得ます。

但し、他人に「平成」を含んだ商標の権利を取得されてしまうと、本当に使用できなくなるのか、というと必ずしもそうではありません。

商標法では、商標権を取得した者よりも前にその商標を使用していた者を保護するために、一定の要件を満たすことを条件に、「先使用による商標の使用をする権利」を設けています。

従いまして、「平成」を含む商標を使用している者が気をつけるべき点は、
(1)自分の商標の使用を継続するために、先使用を証明する客観的資料を用意しておくこと(事業継続の維持)
(2)他人の商標の使用を排除するために、自ら商標権を取得すること(参入障壁を作る)
です。

まず、重要なことは、事業の継続を維持することです。すなわち、自分の商標の使用を確保することです。先使用を証明する客観的資料で大事なことは、いつから商標を使用しているか、商標の表示方法、自分の商標の認知度、などの資料を確保しておくことです。

そして、その資料は、客観的に証明できることが望ましいです。特に、「日付」の証明については、何月何日の広告の紙媒体、何月何日のブログのダウンロードデータ、など、偽物や改ざんでないことがわかる資料を確保しておくことが大事です。

次に、後続の参入を阻止することです。これまで継続的に使用してきた者は先使用による権利によって使用の継続が可能ですが、新規参入までも認める必要はありません。むしろ、商標権を取得しておかないと、後続の使用を差し止めることはできませんし、損害賠償を請求することもできません。第三者の商標権取得によって自分の商標の使用が脅かされては事業も安定しません。

あと1年ほどで、「平成」を含んだ商標を独占できる時代が来ます。それまでに、可能な限り、準備しておくことをお勧めします。

なお、現時点では、特許庁から「平成」を含んだ商標の取扱いについての発表はありません。今後、何らかの発表があるかもしれませんので、注意が必要です。


商標をどうすることが「商標の使用」に該当するのか

商標権者などのように、登録商標の使用をする権利を有する者は、登録商標を「使用」することができます。

登録商標の使用をする権利を有しない者は、登録商標及びこれに類似する商標を「使用」することはできません。「使用」すると、権利の侵害になります。

では、商標の「使用」とは、どういう行為なのでしょうか。

商標法には、使用行為の対象等と使用内容について、2条3項1号から10号までの10項目の定義が規定されています。各号に対応する具体的な例をみてみましょう。

1号 商品又は商品の包装に標章を付する行為 ◯商品「かばん」に商標を表示する行為(付する行為)
2号 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為 ◯1号の「かばん」を販売する行為(譲渡、引き渡し)
◯1号の「かばん」を店内に陳列する行為(展示)
◯1号の「かばん」を輸出あるいは輸入する行為
◯1号の「かばん」をインターネットを通じて販売する行為(電気通信回線を通じて提供)
3号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為 ◯飲食店が客用のグラスに商標を表示する行為(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為)
◯飲食店がテイクアウト用の容器に商標を表示する行為(その提供を受ける者の利用に供する物:譲渡する物)
◯レンタサイクルに、そのレンタサイクル会社の商標を表示する行為(その提供を受ける者の利用に供する物:貸し渡す物)
4号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為 ◯飲食店が客用のグラスを使って営業する行為(標章を付したものを用いて役務を提供する行為)
◯レンタサイクル会社がレンタサイクルを用いて営業する行為
5号 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為 ◯飲食店がコーヒーサーバに商標を付して店内に展示する行為(役務の提供の用に供する物を役務の提供のために展示する行為)
◯飲食店が食器(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物)に商標を付して棚に展示する行為
6号 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為 ◯クリーニング店が、クリーニング後の衣類に商標が付されたシールを貼る行為
7号 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為 ◯テレビの映像面を介して通信販売を行う際に商標を表示する行為
◯インターネットの映像面を介して通信販売を行う際に商標を表示する行為
8号 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為 ◯商品やサービスの広告に商標を付する行為(商品若しくは役務に関する広告、価格表、取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布する行為)
◯インターネットの広告に商標を付する行為(又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為)
9号 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為 ◯小売店舗で音の商標を流す行為
10号 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為 ◯新商標の保護対象が拡大した場合に、商標の使用の定義も政令で手当てできるようにするための定義

登録商標を使用する行為は、登録商標の使用をする権利を有する者も、それ以外の者も、気を使う行為です。

自己の登録商標が第三者に使用されていると思われる場合や、自己の商標の使用が他人の登録商標の使用に該当すると警告を受けている場合など、使用についての判断が必要な場合はまずは弁理士に相談されるのが良いかと思います。


商標権の維持費はいくらなのか

商標登録出願し、審査において拒絶理由がなく、商標登録をすべき旨の査定を受け、所定の期間内に特許庁に登録料を納付すると、商標権の設定の登録がなされます。

商標権は、この設定の登録によって発生します。また、商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年をもって終了します。

商標権は、更新の登録の申請を行うことにより、商標権の存続期間を更新できます。更新を続けることによって、半永久的に商標権を維持できます。

よって、特許庁に納付する登録料・更新登録料が、商標権の維持費の主な費用になります。登録料の納付は、10年分の一括納付と、5年分の分割納付を選択できます。

初めて登録する場合
一括納付の場合:区分数×28,200円
分割納付の場合:区分数×16,400円

更新登録する場合
一括納付の場合:区分数×38,800円
分割納付の場合:区分数×22,600円

(参考)特許庁ウェブサイト 産業財産権関係料金一覧(2016年4月1日時点)
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/hyou.htm

具体例として、以下の有名な商標の場合について説明します。
(登録第5747659号)

「anello」は株式会社キャロットカンパニーの登録商標です。

登録日は平成27年3月6日ですので、新料金が適用されます。この商標の区分数は「1」です。

18 かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,皮革製包装用容器,傘,傘カバー,傘用ケース,愛玩動物用被服類

区分の中の指定商品や指定役務の数は、登録料・更新登録料に影響しません。区分の数のみによって登録料・更新登録料が決まります。

よって、初めて登録する場合に特許庁に納付する登録料は、
一括納付の場合:区分数1×28,200円=28,200円
分割納付の場合:区分数1×16,400円=16,400円
となります。実際には、10年の一括納付がなされています。

分割納付の場合、後半5年分も16,400円ですので、10年間で32,800円となり、割高になります。事業やマーケットの成り行きをみたり、短期間のビジネスを考えている場合は5年間の維持で割り切っても良いかと思います。

商標の更新の登録をする場合、平成37年3月6日の6月前から3月6日までに、更新登録の申請を行い、次の更新登録料を特許庁に納付することになります。
一括納付の場合:区分数1×38,800円=38,800円
分割納付の場合:区分数1×22,600円=22,600円

上記の例では、区分数が1ですが、区分数が2、3、・・・と増えていくと、登録料・更新登録料は2倍、3倍、・・・・と増えていきます。

現行法では、区分は45あります。極端な例として、全区分を指定して商標登録を受けた場合、次の登録料を特許庁に納付することになります。
一括納付の場合:区分数45×28,200円=1,269,000円
分割納付の場合:区分数45×16,400円=738,000円

更新登録の場合は、次の更新登録料を特許庁に納付することになります。
一括納付の場合:区分数45×38,800円=1,746,000円
分割納付の場合:区分数45×22,600円=1,017,000円

料金は、以下の特許庁の自動計算システムで簡単に計算できます。
(参考)手続料金自動計算システム(2016年4月1日時点)
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/shutugan.htm

ちなみに、J-PlatPatで全区分を指定した商標を調べてみたところ、たくさんヒットしましたのでいくつかご紹介します。

(登録第4227717号、権利者:ハースト、ホールディングス、インコーポレーテッド、区分数:42)
(区分数は42ですが、出願当時の法区分は42ですので、出願時は全区分指定になります。)


(登録第4906237号、権利者:青山商事株式会社、区分数:45)


(登録第5787972号、権利者:観光庁長官、区分数:45)


(登録第5926542号、権利者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、区分数:45)


(登録第5926543号、権利者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、区分数:45)

(商標の画像は特許情報プラットフォームより引用)

全区分の指定は、防護標章登録が非常に多いです。ざっくりと、防護標章登録は、商標登録した指定商品・指定役務以外について、自分は使わないけど、他人が使うと混同を生じると困るので、登録しておく、というものです。

さて、権利を取得することの意義は、商標権に限らず、参入障壁を作ること、事業継続を維持すること、です。

上の「anello」の例ですが、商標権侵害差止等請求訴訟(平成28年(ワ)第8424号)がなされ、商標権の権利者である株式会社キャロットカンパニーが概ね勝訴しています。

(画像は判決文より引用)

商標の類否についての争いはなく、争点は、販売個数と損害額です。原告の請求額に対する裁判所の判断はかなり低くなりましたが、それでも商標権を有しているからこそ、相手方の販売を停止させたり、損害賠償請求できたりします。

裁判が起こらないことが最も良いことですが、裁判を起こしてでも侵害品を排除せざるを得ない場合もあります。それは、商標権を有していればこその効果です。

もちろん、商標権の維持費は掛かります。しかし、他社に利益を取られないことを考えると、安いコストだと思います。

なお、商標権の維持に関し、特許事務所に権利の管理を依頼した場合や、侵害発見のための調査を行う場合などは、特許庁への支払いとは別の料金が発生します。


特許料等の減免制度~アカデミック・ディスカウントを中心に

特許庁には、特許出願の審査請求料や特許料を減免する減免制度があります。

この減免制度を利用できる減免対象者は以下の者に限られています。
・中小ベンチャー企業・小規模企業等
・個人(所得税非課税者等)
・法人(非課税法人等)
・研究開発型中小企業
・研究開発型中小企業(アジア拠点化推進法)
・アカデミック・ディスカウント
・独立行政法人
・公設試験研究機関
・地方独立行政法人
・承認TLO
・認定TLO
・承認地域経済牽引事業を行う中小企業

但し、軽減措置の期限が決められている減免対象者や、料金が免除となる減免対象者等があります。また、各減免対象者は、対象者に該当するか否かの基準が定められています。詳しくは下記のページをご参照下さい。

(参考)特許庁ウェブサイト 特許料等の減免制度
https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/genmensochi.htm

減免対象者に応じて措置内容が異なります。

一例として、
・減免対象者に該当しない企業(以下、単に企業とします)の発明者
・減免対象者に該当する大学(以下、単に大学とします)の研究者
これらの者が共同発明を行い、企業と大学とが共同出願する場合に、大学が減免措置を受けるために必要な要件や手続きを簡単にご説明致します。

まず、この場合に受けられる減免制度は「アカデミック・ディスカウント」です。

軽減措置は、
(1)特許出願の審査請求料が半額軽減になる
(2)特許料(第1年分から第10年分)が半額軽減になる
の2つです。

ここで、「半額軽減」とは、権利の持分に対する割合です。

以下では、特許出願の審査請求料の半額軽減について詳しく説明します。審査請求料の半額軽減に必要な書類は、
・職務発明認定書
・持分証明書
・審査請求料軽減申請書(産業技術力強化法)
です。

<職務発明認定書>
下記の記載例のように記載します。

(画像は特許庁ウェブサイトより引用)

「3.発明者」の欄には、「(1)大学等の研究者(職務発明をした者)」のみを記載しても良いです。つまり、「3.発明者」の欄に「(2)上記以外の者(職務発明以外の者)」の欄を設ける必要は無く、企業の発明者を記載する必要はありません。

もちろん、記載例のように積極的に企業の発明者を記載しても構いません。大学が大学の研究者の職務発明を認定できれば良いですので、大学の情報のみを記載する方が書面としてわかりやすいかと思います。

注意点は、「4.発明をした日」の日付けが、特許出願の出願日よりも前の日付けになっていることです。

最後に、「(証明する者)」の印が必要になります。

職務発明認定書は、審査請求料軽減申請書に添付します。

<持分証明書>
アカデミック・ディスカウントでは、持分証明書の提出が必要です。民法の規定では、権利の持分の取り決めがない場合は1/2ずつになりますが、減免措置を受けるためには、たとえ1/2ずつに取り決めを行っていたとしても書類の提出が必須です。

持分証明書には、出願番号、出願日、発明の名称、特許を受ける権利の持分、出願人の住所・名称・代表者を記載します。例えば、「甲 1/2、乙 1/2」や「甲 50%、乙 50%」というように、持分の割合を記載します。持分証明書には、企業と大学の両者の印が必要です。

通常、出願審査請求書に持分証明書を添付して提出します。

既に出願審査請求書を提出している場合や出願審査請求書をオンラインで提出する場合には、紙の書面の手続補足書あるいは手続補正書に持分証明書の原本を添付して特許庁に郵送します。

手続補足書あるいは手続補正書の【手続補正1】は次のように記載します。

【手続補正1】
  【補正対象書類名】   出願審査請求書
  【補正対象項目名】   提出物件の目録
  【補正方法】      追加
  【補正の内容】
    【提出物件の目録】
      【物件名】   持分について証明する書面

出願審査請求書の書面に、持分証明書を追加するための内容です。

<審査請求料軽減申請書>
審査請求料軽減申請書には、減免対象者を申請人として記載します。注意点は、特許出願は企業と大学との共願ですが、減免制度を利用するのは大学のみです。よって、申請人には大学のみを記載します。

なお、共同出願人の全員が減免制度を利用する者の場合は、申請人には出願人の全員を記載することになります。

審査請求料軽減申請書はオンラインで特許庁に提出することができず、紙の書面に職務発明認定書の原本を添付して特許庁に郵送します。

減免制度では、書類の援用(前回提出した書類を今回の申請に利用する方法)ができるようですが、原則は都度提出する必要があると思って下さい。

(参考)特許庁ウェブサイト 特許料等の減免制度に関するQ&A
https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/genmen_faq.htm

企業と大学が上記の申請を行った場合、大学が受けられる減免の効果はどのくらいでしょうか。

企業と大学の権利の持分が1/2ずつの場合、大学は特許出願の審査請求料が半額軽減になりますので、大学が支払う審査請求料は持分に応じた負担額の半額、つまり(持分1/2)×(半額軽減1/2)=1/4になります。

審査請求料が仮に16万円の場合、大学の審査請求料の負担額は、8万円の半額、つまり4万円になります(16万円の1/4)。企業の負担分は8万円ですので、特許庁に支払う審査請求料は8万円+4万円=12万円になります。

極端な話をすると、企業の権利の持分が1/10、大学の権利の持分が9/10の場合、大学の負担額は審査請求料16万円×(持分9/10)×(半額軽減1/2)=7万2千円です。企業の負担額は16万円×(持分1/10)ですので1万6千円です。よって、特許庁に支払う審査請求料は7万2千円+1万6千円=8万8千円になります。権利の持分の割合によっては、審査請求料は約半額になります。

大学が単独で出願した場合にアカデミック・ディスカウントを利用すると、特許出願の審査請求料が半額軽減になりますので、審査請求料は単純に半額になります。上記の例ですと、審査請求料16万円が8万円に減額されます。

特許料についても上記と同じ計算をすることになります。特許料の軽減申請をする場合には、新たに「特許料軽減申請書」の提出が必要になります。

特許庁の減免制度を利用すると、出願のコストを多少なりとも減らすことができます。権利の持分の取り決めがあったとしても、出願審査請求料や特許料を支払うのは企業という場合が多く、減免制度を利用することで企業の負担を減らすことができます。

出願人に減免対象者が含まれる場合には積極的に減免制度をご利用頂ければと思います。


商標登録表示

商標法では、「その商標にその商標が登録商標である旨の表示を付するように努めなければならない」と規定されています(商標法第73条)。

「努めなければならない」とありますように、訓示規定です。商標登録表示は義務ではなく、違反しても罰則等の制限はありません。

表示方法については、「商標法第73条の商標登録表示は、「登録商標」の文字及びその登録番号又は国際登録の番号とする」と具体的に定められています(商標法施行規則第17条)。よって、法律上の正しい表記は、「登録商標第〇〇〇〇号」となります。

しかしながら、「登録商標第〇〇〇〇号」という表記はあまり見かけません。世の中で多く見かける表示は、「○にR」のマーク(®マーク)です。
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Rマークは、アメリカ特許商標庁登録商標を表しています。“Registered in U.S. Patent and Trademark Office”若しくは“Reg. U.S.Pat. & Tm. Off.”の意味です。つまり、アメリカで登録されている商標です。もちろん、他の国でも登録されている可能性があります。

(参考)特許庁 外国産業財産権制度相談事例集 210,211ページ Q11
https://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/info/pdf/20180301-shuryou/01.pdf

アメリカでは、Rマークの表示を行わなかったことによって、他人が自分の商標を使用したことによる損害賠償の請求を行うことができなくなります。

日本ではRマークを付することは義務ではありません。但し、登録商標以外の商標について商標登録表示やこれと紛らわしい表示を付する等の行為を行うと、虚偽表示として、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されますので(商標法第74条、80条)、注意が必要です。虚偽表示に対する罰則は、多くの国で採用されているようです。

自分が使用している商標が登録商標であることを示す表記としては、Rマークの他に、文章で明記する方式があります。
20171222_IMG-1048

Rマークや文章表記のように、商標が登録商標であることを示すことの最大の効果は商標を普通名称化させないようにすることです。つまり、誰でも使える言葉(識別力の無い語)にしないようにすることです。図形商標も同じです。商標は登録してからの希釈化の防止が重要です。

他方、TMマークやSMマークがあります。

「TM」は、“Trademark”(商品等に付される標章)の略称、「SM」は、“Servicemark”(役務等に付される標章)の略称です。これらのマークもアメリカ特許商標庁において定められたものです。

「TM」や「SM」を使用するための商標登録の必要はありません。出願中であることも必要ありません。さらに、その主張の有効性も担保されません。つまり、商標であることの権利行使もできませんし、マークを付けていたとしても他の商標権者から権利侵害で訴えられる可能性があります。

TMマークの例としては、以下のものがあります。
20171222_TM

オリンピック・パラリンピックの東京2020大会エンブレムにもTMマークが使用されています。(https://tokyo2020.jp/jp/

その他、
LenovoTM (レノボ)
F1TM
AndroidTM (Google)
SupersonicTM (dyson)
などがあります。

商標登録されているものと、TMマークとして用いられているものと、を比較すると面白いです。

レノボ(LenovoTM)の場合、登録商標は、
20171222_4719475(登録第4719475号)
20171222_1299513(国際登録第1299513号)
です。最初の文字が、商標の場合は小文字のエル、TMマークのものは大文字のエルになっています。下の国際登録は、最初の文字が大文字であり、上の登録商標よりも文字の太さが細いです。

グーグル(AndroidTM )の場合、登録商標は、「ANDROID」(登録第5132404号)です。全て大文字です。TMマークのものは最初の文字が大文字で後に続く文字は全て小文字です。

ダイソン(SupersonicTM )の場合、登録商標は、
20171222_1301389(国際登録第1301389号)
です。商標は全て大文字、TMマークのものは最初の文字が大文字で後に続く文字は全て小文字です。グーグルと同じパターンですね。

図形商標でも、RマークとTMマークを区別しているものがあります。

スターバックスの場合、登録商標は、
20171222_5232548(登録第5232548号)
です。

TMマークがついているものは、図形商標の一部です。
20171222_starbuckstm

このように、RマークとTMマークを使い分けている企業は多々あります。何を商標登録して、何を標章として使用しているのか。その違いを意識して見てみると面白いかと思います。

SMマークの例としては、以下のものがあります。
20171222_SM-1070

やはり、日本では、TMマークは多く見かけても、SMマークは見かけることが少ないです。

(商標の画像は特許情報プラットフォームより引用)


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「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」は、どこまでなら回避できるか

「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」は、識別力が無いとして拒絶され、登録できません。

「極めて簡単で、かつ、ありふれた」というのは、例えば、1本の線、ローマ字1字または2字、数字などです。

(参考)特許庁ウェブサイト 商標審査基準 3条1項5号
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/09_3-1-5.pdf

商標審査基準には、「極めて簡単で、かつ、ありふれた」例が記載されていますが、これらの例に該当するかどうかの線引きは実際は難しいです。そこで、特許庁の審判あるいは裁判で判断された例をいくつかご紹介します。

<登録できなかった例>
●本願商標「CQ10」
審決では、
「一般に、欧文字1字又は2字・数字等で組み合わせたものが、商品、役務の品番、等級、質等を表示するための記号・符号として商取引上類型的に採択使用されている実情があり、本願指定役務を取り扱う業界においても例外ではない。」
と判断され、登録できませんでした。(不服2006-009995)

●本願商標「CR-250NN」
審決では、
「欧文字2文字と数字を、「-」(ハイフン)を用いて組み合わせた標章は、一般に商品の規格、型式又は品番等を表示するための記号・符号の一類型として、本願指定商品を含む各種商品について、取引上普通に採択・使用されているのが実情である。」
と判断され、登録できませんでした。(不服2007-006439)

●本願商標「20171208_10019
判決では、
「セリフを持つ書体で欧文字を表すことは一般的に行われており(甲1),欧文字「i」をセリフ書体で表す場合に,縦線部に対して一定の太さを持つセリフにより表すことも通常行われている(乙1~乙3)。また,「i」の上部の点を四角形とすることについても,しばしば行われているといえる(乙3)。さらに,四角形の点と一定の太さのセリフを兼ね備えた書体(例えば,「Memphis」書体。乙3~乙5)も存在する。そして,色彩も,看者をして通常の黄緑色の範囲内であると認識させるものを,単色で用いているにすぎず,本願の指定役務を提供する業界においても,緑色を基調とする色彩は広く用いられている(乙6~乙19)。」
と判示され、登録できませんでした。(知財高判H27(行ケ)10019)

<登録できた例>
○本願商標「N2H2」
審決では、
「本願商標は、前示したとおりローマ文字と算用数字とを交互に配列した構成よりなるものであって、その文字配列は普通に採択され、使用されているものとはいい得ないものであり、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章と判断することはできない。」
と判断され、登録されました。(不服2003-007856)

○本願商標「LJ100」
審決では、
「構成各文字は、同書、同大で外観上まとまりよく一体的に表されているものである。そして、前記のとおり一体的に表された構成態様よりなる「LJ100」の文字が、本願の指定商品の分野において、商品の品番、等級等を表示する記号、符号として、取引上、普通に使用されているという事実も見出せない。」
と判断され、登録されました。(不服2007-009876、登録第511346号)

○本願商標「20171108_005791747
審決では、
「淡い青色の太い線で、角の丸い正三角形を描いたものと認められる。しかして、当該図形を全体としてみるに、太い線で表されている三角形は、その3つの角が、いずれも外側よりも、内側の角が鋭角になるように表されており、外側の角が丸みを帯びていることにより、バランス良く安定した印象を与える一種特有な図形よりなるものとみるのが相当である。また、職権による調査によっても、当該図形が輪郭等として普通に採択、使用されている事実も見出せない。」
と判断され、登録されました。(不服2015-006576、登録第5791747号)

登録できなかったものとしては、総じて、標準文字での出願が多いという印象です。また、品番、形式、規格を表示するための記号や符号であると判断されると登録は難しいようです。

他に、「20171208_20034385」(不服2003-004385)や「20171208_200729718」(不服2007-029718)のように、1文字でも図案化されたものがありますが、図案化の程度が低いとして登録は認められていません。

一方、登録できたものとしては、1文字や2文字だとしても、装飾的であったり、より図案化されたものが多いという印象です。

例えば「20171208_200118341」(不服2001-18341)や「20171208_20046408」(不服2004-006408)は、確かにローマ字1文字ですが、これらのように特殊な図形として認識され、識別標識として機能すると判断されれば、登録は可能なようです。

結局のところ、何が良くて何が駄目なのかは、拒絶無しの登録例、審決例、判例から傾向を見ることになると思います。


メッセナゴヤ2017

先日、ポートメッセなごやで開催されたメッセナゴヤ2017の次世代自動車フォーラム2017に行ってきました。
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講演内容は、燃料電池自動車と予防安全技術についてでした。来年も興味のあるテーマがあれば参加したいと思います。

さて、自動車産業の未来は、様々なところで客観的あるいは主観的に語られる永遠のテーマですが、世界の自動車市場はどのようになっているのでしょうか。

近年の自動車の市場はアジアが非常に伸びています。特に、中国での自動車販売が伸びた結果であると考えられます。
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(出典:特許行政年次報告書2017年版〈本編〉)

また、自動車の世界市場規模は今後も伸びていくと考えられています。
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(出典:特許行政年次報告書2017年版〈本編〉)

その一つの要因は、IoT(Internet of Things)技術、ビッグデータ、AIが関連する第四次産業革命であると考えられます。自動車に関するIoT関連技術の特許出願は年々増加しています。
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(出典:特許行政年次報告書2017年版〈本編〉)

技術は積み重なって発展していくことを考えると、自動車に関するIoT関連技術は今後も伸びていくはずです。
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(出典:特許行政年次報告書2017年版〈本編〉)

自動車は、インターネットに繋がっていて当たり前、ビッグデータを活用したナビゲーションが当たり前、AIが判断する自動運転が当たり前というように、現在とは全く違う乗り物になっていくと、自分は考えています。

 


モノグラム商標の読み方

2つの文字を組み合わせて図案化したものを「モノグラム」と呼びます。

ルイ・ヴィトンのモノグラム商標がよく知られています。
20171030_1419883(登録第1419883号)

商標が似ているか似ていないかの類否は、外観・称呼・観念の三点観察を基本とします。三点観察の中の称呼は「商標の読み」です。

例えば犬の図形のように、図が明らかに犬を示していた場合には「イヌ」と読めます。しかし、犬のように見えるが確信が持てないような図などの場合には図の読みができないとして「称呼が生じない」となります。

では、「V」と「L」を組み合わせたモノグラム商標はどのように読むのでしょうか。

過去の裁判(平成3年(行ケ)91)では、
「複数のローマ字をモノグラム化した構成からは特定の観念を生じることはないとしても、モノグラムとは文字の組み合わせであるから、文字に称呼がある以上、当該商標が複数のローマ字をモノグラム化した構成からなることが一見して明らかな場合にまで、一切称呼が生じないと解することは相当でない。」
と判示しています。

また、この裁判では、上のモノグラム商標を『ヴィーエル』、『ヴイエル』、『ブイエル』、『エルヴィー』、『エルヴイ』、『エルブイ』の称呼が生ずる、と判示しています。

つまり、読める文字で構成されている以上、モノグラム商標は読める、というわけです。

では、下記のモノグラム商標はどのように読むのでしょうか。
20171030_5159867(登録第5159867号)

審決(不服2007-30332)では、
「本願商標は、(略)、「S」の文字の右やや上方に小さく表された「3」の数字は、一般に、乗法における「3乗」と呼ばれる乗数であって、その存在が意味するところは小さくないから、本願商標の構成においてもその存在を無視すべきではなく、かつ、該「3」の数字部分を捨象して観察すべき格別の理由も見出し難いので、本願商標は、かかる構成全体をもって、自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべきであり、特定の称呼及び観念は生じないものといわざるを得ない。」
と判断されています。

つまり、読める文字で構成されていても、特定の称呼は生じない、というわけです。

モノグラム商標は読めたり読めなかったりするわけですが、文字の配置を工夫して、特定の称呼を生じさせないようにすることで、出願の拒絶や商標の類似を回避できる可能性があるということです。

(画像は全て特許情報プラットフォームより引用)


音楽的要素のみからなる音商標の登録

平成29年10月2日現在、音商標は172件の登録がありますが、そのほとんどが歌詞付きの音商標です。

例えば、
20171006_5969114(登録第5969114号)
20171006_5938552(登録第5938552号)
などです。(画像は特許情報プラットフォームより引用)

音商標は特許庁のJ-PlatPatで商標公報を開くと再生できます。

先日、特許庁から「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」なる情報が発表されました。

(参考)
特許庁ウェブサイト
https://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/otoshouhyou-hatsutouroku.htm

音楽的要素とは、メロディー、ハーモニー、リズム又はテンポ、音色等をいう、とあります。

つまり、音楽的要素のみからなる音商標とは、歌詞等が付いていない音のみで構成された商標です。

音楽的要素のみからなる音商標として、大幸薬品株式会社、インテル・コーポレーション、BMWの3件の商標が登録されました。

これらは、CM等で流れている音です。CMで音を流す行為や店舗で音を流す行為は、商標の使用の一形態です。

音の商標の出願が可能になってから2年半経っています。歌詞付きの音の商標は登録されてきたものの、歌詞なしの音の商標の審査が続いていたということは、特許庁は歌詞無しの音の商標は歌詞付きの音の商標よりも識別力が弱いと考え、慎重に審査していたからでしょうか。

音は人の生活に溶け込んでおり、繰り返し流れ、人々の意識・無意識に植え付けられていきます。特徴がある(識別力がある)音は、発音時間に関わらず、商品あるいはサービスを十分区別し得るものになると思います。

以前は、テレビや店舗等で音が流れるような状況が多かったですが、現代ではパソコンやスマートフォン等のデバイスでも頻繁に音が流れるようになりました。

そう考えますと、音商標は消費者等への浸透力が強い標識として十分機能するものと考えられます。経験上、店舗で音商標が繰り返し流れると、消費者は知らず知らずのうちに記憶してしまうものです。

音の商標が権利として認められる時代になり、音商標の重要性が今後さらに高まっていくと思われます。


aiwaブランドが復活する!

「aiwa」というブランドをご存じでしょうか。90年代にラジカセやテレビデオ等のAV機器で人気でした。

aiwaブランドを持つアイワ株式会社は2002年にソニー株式会社に吸収合併され、2008年には生産が終了したそうです。

製品は市場から消えましたが、「aiwa」の商標はソニー株式会社が保有し続けていたようです。権利は維持されているが使用されていない、いわゆる休眠商標になっていたようです。

その「aiwa」の商標権が、ソニー株式会社から「アイワ株式会社」に譲渡されました。「アイワ株式会社」は、秋田県に本社を持つ「十和田オーディオ株式会社」が新たに作った会社です。

J-PlatPatで「アイワ株式会社」の商標を検索してみますと、22件ヒットしました。

20170926_2643462(登録第2643462号)
20170926_4690144(登録第4690144号)
(画像は特許情報プラットフォームより引用)

ソニー株式会社が「aiwa」の商標権を消滅させなかった理由はわかりませんが、「aiwa」を消滅させなかったからこそ、「aiwa」が市場に戻ってくることができました。

さて、他人の商標を使いたい場合の対応策として、おおまかに、
(1)ライセンス契約(使用権の設定、移転)
(2)商標権の譲渡(権利の移転)
(3)他人の商標権を取り消して自ら出願する
があります。

下の統計にありますように、2016年では、商標権の譲渡(権利の移転)は2万件以上、ライセンス契約(使用権の設定、移転)は200件程度ありました。有償・無償の区別まではわかりません。
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(出典:特許行政年次報告書2017年版〈統計・資料編〉)

2万件の商標権の譲渡を多いとみるか少ないとみるか、です。

比較対象を(3)としますと、2016年の取消審判は969件、平均審理期間は6.4ヶ月でした。

仮に商標を取り消すことができて、出願し直した場合、審査期間が6ヶ月程度になります。他人の商標を取り消して出願し直すと、費用と時間がかなり掛かります。

また、取消審判は、審判請求するための条件を満たす必要があり、権利者に正当な理由がある場合などは取り消すことはできません。

一方、ライセンス契約や商標権の譲渡は、交渉次第ですが、比較的短期間で合意可能です。費用に関しては交渉内容次第でしょうか。もちろん、交渉が決裂する場合もあるかと思います。

他人の商標権を取り消すよりは、権利の移転のほうが商標権の流通性が断然高い、ということです。

ブランドの再構築か、それとも新構築になるのか。今後発売される「aiwa」の製品が気になるところです。


一発特許査定は幸運なことなのか、それとも不幸なことなのか

一発特許査定とは、特許出願後、審査請求を行い、審査官による審査が行われ、拒絶の理由が一度も通知されることなく、特許査定がなされることです。

特許出願のほとんどは何かしらの理由を持って拒絶すべきものと判断されますが、特許出願の中には、拒絶の理由が無く、一発特許査定になるものもあります。

一発特許査定になるのは拒絶の理由が存在しないからですが、一度も拒絶理由が通知されないことは幸運なことなのでしょうか。

一度も拒絶の理由が通知されないことに対しては、
「権利範囲を狭く書きすぎた」
「もっと権利範囲を広くできたはず」
「分割出願の機会が失われた」
などの意見があります。

なお、現在では、特許をすべき旨の査定(拒絶査定不服審判におけるものを除く)の謄本の送達があつた日から30日以内に分割出願が可能となり、一発特許査定になった場合でも分割出願を行う機会は確保されています。

つまりは、権利範囲が狭いということが懸念されるわけですが、一度も拒絶理由が通知されないことは果たして不幸なことなのでしょうか。

特許査定については、以下のような統計があります。
20170914
(出典:特許行政年次報告書2017年版〈統計・資料編〉)

2007年ではファーストアクション件数が30万件程度であるのに対し、特許査定件数は14万件程度でした。

2016年ではファーストアクション件数が24万件程度であるのに対し、特許査定件数は19万件程度でした。

年度を挟んだ案件を考慮していませんので、大ざっぱな数字ですが、特許査定の割合は2007年頃よりも2016年は明らかに増加しています。

この統計から、出願人は、特許出願前に関連する技術分野の特許調査を十分に行い、拒絶されにくく妥協はしたくないギリギリの権利範囲を設定して出願している傾向があると推測できます。

出願の権利範囲は事業戦略に合うように、すなわち特許権が取得できなかったら事業が成り立たないということが起こらないように、知財戦略として権利範囲の落とし所も考えて出願していると推測できます。

この傾向は、年々高まってきたのだと考えられます。つまり、事業戦略と知財戦略が合致するように、特許出願がされてきて現在に至るということです。

ファーストアクション件数には拒絶理由通知書(これがほとんどだと思いますが)が含まれていますので、一発特許査定の割合は不明ですが、出願人は拒絶の対応をしたとしても取りたい特許を取りにいっていると言えます。

一発特許査定の場合は権利範囲を減縮補正しなくて済むため、出願時に狙った権利範囲を確保できます。

他方、拒絶理由の通知に対応するということは、補正によって権利範囲を狭くするか、意見書で拒絶の理由を有しない旨の反論をするか、いずれにしても出願人は応答期限までに対応を迫られます。

補正せざるを得ない場合、代理人費用を掛けて、権利範囲を狭くするわけです。意見書で反論する場合も代理人費用が掛かります。(特許庁への支払いは不要です。)

ということで、個人的には、一発特許査定は、事業戦略と知財戦略が合致している場合、出願時に狙った権利範囲をいじることなく、費用も時間も掛けることなく、早期に権利化できるということで、幸運なことだと考えます。

「一発特許査定になったから権利範囲が狭かった」と考えるよりも、「一発特許査定になって狙った権利範囲の特許権を取得できた」と考えるほうが、心のストレスは小さく済むのではと思います。

自分としては、一発特許査定は拒絶理由に対する反論機会がないので弁理士の仕事としては物足りないですが、狙った権利範囲の特許権を一発で取得できたことは良かったことだと思うようにしています。

その一方で、審査請求をした場合に一発拒絶査定というものは無いわけで、拒絶理由の通知があった場合でも、事業戦略と知財戦略に合致した権利範囲の特許を取得できるように対応する機会は必ずあります。

但し、拒絶査定が通知される前に最後の拒絶理由が通知されるか否かは審査官の判断に委ねられており、法律上も運用上も必ず「最後の拒絶理由通知」が通知されると決まっているわけではありません。

結局のところ、事業戦略と知財戦略が合致している場合、一発特許査定は追加の費用も時間も掛からずに狙った権利範囲の特許権を取得できるということで幸運なことだと思います。拒絶理由通知書を受け取ったとしても、落とし所の権利範囲を取得できる機会があるわけですから、不幸なことではないと考えます。


家紋からなる商標登録出願の取扱い

特許庁が「家紋からなる商標登録出願の取扱い」を商標審査便覧に追加しました。

(参考)
特許庁ウェブサイト
42.107 第4条第1項第7号 42.107.06 家紋からなる商標登録出願の取扱い
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyoubin/42_107_06.pdf

家紋の商標については、特許庁は伝統的な家紋(戦国時代の武家の家紋、神紋、社紋、寺紋、宗紋等2)を対象に審査する、とのことです。
(2 神紋、社紋、寺紋及び宗紋は、通常は家紋とは異なるものとして定義されているが、本取扱いでは便宜上家紋の一種として取り扱う)

理由は、結論だけ引用しますと、「伝統的な家紋と関係ない第三者が商標登録を受け、独占的に使用することは社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反するため適当ではない。」とのことです。

ウィキペディアによると、戦国時代は15世紀末から16世紀末にかけて戦乱が頻発した時代区分とのことです。また、家紋は平安時代(794年から1192年頃)から公家によって使われ始めたとあり、戦国時代前から使われている家紋もあるようです。

戦国時代を除いた時代の家紋等はどういう取扱いになるのでしょうか。これまで通り、識別力さえあれば第三者が商標登録を受けて独占的に使用しても構わない、となるのでしょうか。

伝統的な家紋等の線引きが非常に難しいのではないかと思いました。